「その、死者さん。お名前はなんていうの?」

水月くんは私の背にいる靄に向かって声をかける。

『美紀です……荒井美紀』

「荒井美紀さんというらしいです」

「美紀さん、よろしくね。それにしても……」

死者相手にも変わらずフレンドリーな水月くんの視線が私に移る。

「なんで灯ちゃんにだけ、美紀さんの声が聞こえたんだろうね」

「私も驚いてます。霊感なんて、なかったはずなのに」

美紀さんの声は、残念ながら私にしか聞こえないらしい。

神様のオオちゃんでさえ、目に見えるだけなのだとか。

「那岐は心当たりないの」

珍しく角席ではなく、私たちの輪の中にいる陽太くんが那岐さんをちらりと見上げる。

「……さあな」

那岐さんは歯切れ悪く、ふいっとそっぽを向いた。

見かねたオオちゃんは自分に注目!というように、両手を挙げて振った。

「ともかく、事情はわかったぞ。まずは美紀の会いたい相手――磯部誠(そのべ まこと)を探し出して、この喫茶店に連れてくる必要があるのう」

「そこでちゃんと話をすれば、美紀さんの未練も晴れるだろうしね」

水月くんが同調すると、みんなも首を縦に振る。

「で、そこの自称神様。その誠さんはどうやって探すの」

陽太くんは答えをくれそうなオオちゃんのほうを向き、そのつむじを人差し指でつんっと押す。

「自称ではない! 僕は本物の神様だ!」

ムッとするオオちゃんに、私は苦笑いする。

このままだと話が進まなくなりそうなので、オオちゃんを宥めようとしたとき――。