「那岐さんは、おばあ様と暮らす前もずっと出雲町に住んでたんですか?」

「いや、小学三年までは東京にいた。そこから、ばあちゃんのいた出雲町に越してきた」

「そうだったんですね……」

那岐さんは幼い頃に、ご両親に捨てられてしまった過去を持っている。

小学三年生でこの町にきたときの那岐さんは、なにを思っていたんだろう。

またいつ自分が捨てられてしまうか、そんなことを考えて不安だったのかな。

八歳の男の子が背負うにはあまりにも大きすぎる重荷に胸が締めつけられて、つい彼の横顔を見つめてしまう。

すると視線に気づいた那岐さんは、ちらりと私を見てため息をついた。

「もう、とっくに割り切れてる。それに、この町に来て家族みたいなやつらも出来たしな」

それはたぶん、黄泉喫茶のみんなのことだ。

那岐さんが寂しくないのなら、よかった。

私も微力ながら、那岐さんの孤独を埋められたらいいな。

おこがましくもそんなことを考えていると、通りかかった路地に黒い靄のようなものが見えた気がして、私は足を止める。

なんだろう、今の……前に陽太くんを見たときも同じような靄を見た。