「ありがとうございます、那岐さん」

「別に」

「変な話、しちゃってごめんなさい。でも、笑わずに聞いてくれて、嬉しかった」

「……怖がってるお前を笑い飛ばせるほど、神経図太くねえよ」

「はい。那岐さんはそういう人でしたね」

風が優しく、空気が暖かくなった気がする。

私はさっきまでの恐怖が嘘みたいに穏やかな気持ちで、那岐さんと一緒に月を眺めるのだった。

***

翌朝、那岐さんと黄泉喫茶に向かうため、古い山陰道に沿って展開している二階建ての木造家屋の町を歩いていた。

赤瓦や黒瓦が入り混じり、千本格子も残っている伝統的な古き良き日本の町並みに、何度も通った道だというのに目を奪われる。