「飲め」

「あ……ありがとうございます」

わざわざ、水を汲みに行ってくれてたんだ。

胸にじんわりとぬくもりが広がるのを感じていると、那岐さんは横になっている私の隣に胡坐をかく。

「うなされてたぞ」

「いつも見る変な夢に……続きが、あって」

ドラマの見すぎとか、笑われるのがオチだとわかっているけれど、私は那岐さんの優しい雰囲気に背中を押されて打ち明ける。

「夢? 詳しく話せ」

やけに興味津々な彼に驚きつつも、私は怠い上半身を無理やり起こして水を飲み、夢で見たことをそのまま話した。

それを茶化すでもなく真剣に聞いてくれていた那岐さんは私の話が終わると、夜空に浮かぶ青白い三日月を見上げた。

「……夢の中の自分がどんな姿でも、お前はお前だ」

「私は私……」

「そうだ。それだけは確かだから、お前は伊澄灯として今までどおり生きればいい」

なぜだか、そのひと言が心の底から嬉しかった。

私はこの夢を見るたびに、夢の中の私に心も身体も侵食されてしまうような、そんな不安を抱いていた。

だから、私は私なんだと言ってもらえて、ほっとする。