黄泉喫茶で働くことになってから一週間が経ったある日の夜、私は夢を見た。

『お願いだから追いかけてこないで』

目の前には道を塞ぐ冷たい岩。その向こうにいる誰かに私が何度も叫んでいると、返事があった。

『我は自らの子――ヒノカグツチをこの手にかけ、それでも悲しみは晴れず、こうして黄泉の国までお前を迎えに来たというのに、なぜすぐに顔を見せてはくれないのだ……!』 


 どこか懐かしい、でも最近も聞いたような男の人の声だった。


『なんてこと……』


 この命を賭けて生んだ我が子を手にかけただなんて……。

 誰かの心の声が私の中に流れ込んでくる。ひたひたと迫ってくる絶望感に俯いていると、また岩の向こうから声が聞こえた。 


『一緒に帰って、再び我らの国を作ろう』

『ごめんなさい、それはできないわ。共食は済んでしまったから……』 

『なんだと……っ。いや、だとしても、我が無理やりにでもお前を連れ帰る』

『それはダメよ。簡単に理を変えてはいけない』

『お前は諦めるのか? 我はお前に触れたい、ともに生きたいとそう思っている。お前は同じ気持ちじゃないのか?』

 そんなの、考えるもなく同じ気持ちに決まっていた。
 でも、死んだ人間が現世に戻ることはおろか、共食までしてしまった自分が現世に戻って彼とともに生きることは許されない。

 でも、私も愛してる。
 どうしようもないくらい、その腕のぬくもりが恋しかった。
 長い沈黙のあとで、私は最後に胸に残った想いを貫く決意をして、やっと口を開く。