「もしかして、わざと悪役になったんですか?」


 那岐さんの顔を見上げながら尋ねると、ふんっと横を向いてしまう。


「俺はただ、料理がまずくなるから言っただけだ」


 そうは言うけれど、那岐さんの耳が心なしか赤い。それに水月くんも気づいていたらしい。


「ありがとな、那岐」


 お礼を言われて、那岐さんは耳どころか首まで赤くなっていた。


「素直じゃないのう、那岐は」


 オオちゃんは小さな腕を組むと、やれやれと首を振っていた。


「私、那岐さんのこと怖い人だと思ってたけど、本当は可愛いところもあるんですね」


 にこっと笑って思ったままを口にすれば、那岐さんが赤い顔でこちらを振り返る。私を睨んでいるけれど、まったく怖くない。


「……調子に乗るな。晩飯、抜きにすんぞ」

「いいですよ。その代わり、私の手料理を食べてくださいね」


 照れ隠しの毒舌をスルーすれば、ぐっと悔しそうに那岐さんは息を詰まらせる。それを見つめながら、私は小さく笑ってしまうのだった。