「ピザトーストの味も、お袋の笑顔も忘れないから」


 私たちに向けてなのか、もうそこにはいないお母さんに向けてなのか、雄太郎くんの晴れやかな呟きは喫茶店の空気に優しく溶けていった。

***

 雄太郎くんが帰ったあとの喫茶店では、みんなで陽太くんのいる角席に集まってピザトーストを食べていた。


「暑苦しい、他にもいっぱい席あるのに」


 ぶつぶつと向かいの席で文句をこぼしている陽太くんの隣で、水月くんは「こら、陽太」と軽く叱りつける。


「みんなで食べたほうがおいしいだろ? 空気を悪くするなよな」

「俺はそうは思わない」

「また、そんなこと言って……」

「面倒だと思うなら、ほっとけば」


 ズバッと兄の心配を切り捨てた陽太くんに、これでは朝の繰り返しだと私は苦笑いする。

さすがに水月くんが不憫だったので、フォローしようとしたとき――。


「本当に面倒なら、とっくに関わることをやめてんだろ」

 私の隣に座っていた那岐さんが思わぬ助け舟を出す。

「いいか陽太、グレんのもいい加減にしろよ。特に食事中、料理がまずくなんだろーが。次、うじうじなにか言いやがったら、ミンチにしてハンバーグにするからな」


 ギランッと那岐さんの目が光る。

 助け舟と思いきや、爆弾投下の間違いだったらしい。陽太くんはぶるぶると震えながら、水月くんの背に顔を隠している。

 なんだかんだで、頼るのはお兄さんの水月くんなんだな……。