「私よりも、うんと長い時間を生きなきゃだめよ」

「お袋……うん」

「それから、一回や二回辛いことがあったとしても踏ん張りなさい。その一回の我慢が、これから先、雄太郎の強さになるから」

「わかった」

「あと、なにがあっても家族と一緒にいる時間を作ること」

「結婚したら、ちゃんと守るよ」

「それから……それ、から……」


 お母さんの声が湿り気を帯びて、その瞳から雫がこぼれる。それでも笑っていたのは、元気なお母さんのまま旅立ちたかったからだと思う。


「悲しいときは無理に笑わないで泣いて、逆に楽しいときは思いっきり声出して笑うの。お母さんはどこにいても、雄太郎の決めた道を応援してるからね」

「……っ、ありがとう、お袋」

「じゃあ……」


 雄太郎くんのお母さんは、ピザトーストの最後のひと欠片を手にとる。

 ばいばい、またね、ありがとう。たくさんのお別れの言葉がお母さんの頭の中には、駆け巡っているに違いない。


「元気でね、雄太郎」

「お袋もな……っ」


 その短い言葉の中には、色んな想いが込められている気がした。

 それがなんなのか、わかるのはきっとふたりだけなんだろう。

 ふたりは同時に残りのピザトーストを平らげる。その瞬間、音もなく雄太郎くんのお母さんは姿を消した。


「お袋……最後まで、笑ってたな」


 嬉しさと寂しさが入り交じったような笑みを浮かべて、雄太郎くんは空になった皿の上に涙の粒を落とす。