「私……どうして死んじゃったのかしら。離婚してもあなたに不自由な思いをさせたくなくて、普通の子と同じように生活できるように、まだまだやらなきゃいけないことがあったのに……。どうしてあのとき、ユウくんを応援してあげられなかったんだろうっ」


 あのときが指すのは、雄太郎くんが舞台俳優になりたいと言ったときに無理だと決めつけてしまったことだと、すぐに思い当たった。


「俺だってそうだよ。俺のために必死に働いてくれてたお袋に、あんな言葉をかけてさ……。あの日だけじゃない、もっとお袋のためにできること、たくさんあったはずなのに、なにも恩返しできないまま……っ」


 あのときに戻れたら、とお互いが後悔を抱えていた。
 その痛みを分かち合うように、ふたりは机の上で手を握り合う。


「お袋、俺さ……頑張るから」

「え?」

「お袋みたいに、がむしゃらに働いて、かっこよくなるから。それでいつか、お袋みたいに家族を守れるくらい強くなる」

「……っ、きっと雄太郎ならなれるわ」


 泣いてしまいそうなのをごまかすように、雄太郎くんのお母さんはピザトーストを両手で持ち上げて、かぷりとかじりつく。

 サクッとしたおいしい音につられてか、雄太郎くんもピザトーストに噛みついた。

そのまま歯で千切り、トーストから顔を離すと、チーズはビヨーンッと糸を引く。 

 それをうまく断ち切って、もぐもぐと口を動かした。

「これ、コーンが入ってるピザトースト。お袋が作るのと同じだな」

「あなた、小さいころから好きだったのよ、コーンが」

「甘いし、なんか弾ける触感が好きだったんだよな」


 子供みたいだよな、と恥ずかしそうに笑う雄太郎くんをお母さんは目に焼きつけるようにじっと見つめる。