「ちゃんと、お前の口から話せ」

「そんなっ、いくらなんでも――」


 さすがに無茶だと思い口を挟んだのだが、彼は問答無用で私の言葉を遮る。


「なにを言っても、最期の逢瀬だ。包み隠さずお互いのことを話せ、もう二度と後悔しないために。それが最後にできる親孝行だ」


 なぜか、彼の厳しい言葉の中には深い情を感じる。

 私がしようとしていることはただ、目の前の辛いこと、悲しいこと、苦しいことから目を背けているだけだ。

 でも、那岐さんは雄太郎くんが〝あのときこうしていれば〟と悔やんでしまわないように活を入れてくれている。

 馬鹿だな、私……それが本当の優しさなのにね。


「甘ったれてごめんなさい、那岐さん」 

「は?」


 意味わかんねえ、と顔に書いてある彼を無視して、私は雄太郎くんに向き直る。


「――雄太郎くん。ここでお母さんに向き合わなかったら、また望まない形でお別れすることになる。だから、きみが言わなくちゃ、伝えなくちゃって思うことは言葉にして!」

「あ……はい、そうですよね。俺、またひよってました」


 雄太郎くんは心を決めたのか、顔を上げた。その視線の先には困惑顔のお母さんがいて、どこか怯えているようにも見えた。

 まるで雄太郎くんになにを言われるのか、わかっているみたい。

 そこでハッとした。もしかしたらお母さんは、本当は自分がもうこの世にいないことに気づいてるのかもしれない。ただ、認めたくないのかもしれないと。