「これからお母さんに会うのに、そんな怖い顔してたら心配されちゃうよ。深呼吸して、リラックスリラックス」
「す、すんません……」
謝りながらも、何度か深呼吸をしたおかげで余分な力が抜けたように見えた。
私は彼からそっと手を放して、水月くんに目配せする。
それに気づいた彼は「後悔のない逢瀬を」という言葉を贈り、雄太郎くんの前の席にお皿を置いた。
――カタンッと、食器が机に触れた途端に現れる黄泉の国の住人。
レシピに触れたときにも見た、ハーフアップのブラウンの髪にはっきりとした二重が雄太郎くんにそっくりなお母さんの姿がそこにはあった。
「……雄太郎? 雄太郎……なの?」
瞬きも忘れて、息子の姿を食い入るように見るお母さん。雄太郎くんは息を詰まらせ、言葉を紡げない代わりに頷く。
お母さんは瞳から大粒の涙を流して両手で顔を覆うと、肩を震わせながら俯いてしまった。
「ずっとずっとあなたに会いたいって、そればかり考えていたのよ……っ。お母さん、自分が乗った飛行機が墜落して死んじゃうっていう長い長い夢を見ていたの」
お母さんの言葉に引っかかったのは、墜落事故を夢だと言ったことだった。
もしかして、自分が死んだことに気づいてない……?
空気が鉛のごとく重くなり、みんなが息を呑む中、平然と立っていたのは那岐さんただひとりだけだった。
「珍しいことじゃない。事故で突然命を奪われた人間は死んだという自覚がないまま亡くなることがある。それに死者の魂が黄泉の国で生活しているときの記憶は、この喫茶店に来たときには失われるしな」
「え、そうなんですか?」
どうりで……黄泉の国がどんななのかを知る死者がいないのは、この喫茶店では亡くなるその間際までの記憶しか維持できないからなんだ。
腑に落ちたと納得している私に、彼は「そうだ」と肯定する。
「す、すんません……」
謝りながらも、何度か深呼吸をしたおかげで余分な力が抜けたように見えた。
私は彼からそっと手を放して、水月くんに目配せする。
それに気づいた彼は「後悔のない逢瀬を」という言葉を贈り、雄太郎くんの前の席にお皿を置いた。
――カタンッと、食器が机に触れた途端に現れる黄泉の国の住人。
レシピに触れたときにも見た、ハーフアップのブラウンの髪にはっきりとした二重が雄太郎くんにそっくりなお母さんの姿がそこにはあった。
「……雄太郎? 雄太郎……なの?」
瞬きも忘れて、息子の姿を食い入るように見るお母さん。雄太郎くんは息を詰まらせ、言葉を紡げない代わりに頷く。
お母さんは瞳から大粒の涙を流して両手で顔を覆うと、肩を震わせながら俯いてしまった。
「ずっとずっとあなたに会いたいって、そればかり考えていたのよ……っ。お母さん、自分が乗った飛行機が墜落して死んじゃうっていう長い長い夢を見ていたの」
お母さんの言葉に引っかかったのは、墜落事故を夢だと言ったことだった。
もしかして、自分が死んだことに気づいてない……?
空気が鉛のごとく重くなり、みんなが息を呑む中、平然と立っていたのは那岐さんただひとりだけだった。
「珍しいことじゃない。事故で突然命を奪われた人間は死んだという自覚がないまま亡くなることがある。それに死者の魂が黄泉の国で生活しているときの記憶は、この喫茶店に来たときには失われるしな」
「え、そうなんですか?」
どうりで……黄泉の国がどんななのかを知る死者がいないのは、この喫茶店では亡くなるその間際までの記憶しか維持できないからなんだ。
腑に落ちたと納得している私に、彼は「そうだ」と肯定する。