「女手ひとつで育ててるんだから、俺に構えないなんて当然だった。わかってたのに言われることすべてにムカついて、反抗ばかりで……。こんな親不孝な俺に、お袋が会いたいって思うはずがないだろ……っ」


 ガタンッと机の上に両拳を打ちつける彼のそばに寄り、腰を落とした私は赤くなったその手を上から包み込むように握った。


「今度はちゃんと話して」

「……え?」

「伝えたかったことぜんぶ、お母さんに伝えるの。過去を修正することはできないけど、ここは迎えたかった大切な人との終わりなら変えられる」


 人は入学式、入社式、誕生日といった始まりばかりを重要視する。

けれど、卒業や死といった終わりが納得のいくものでなければ、これまで積み重ねてきた思い出、人生に後悔が残る。

だから、始まりに等しく終わりの時というのは大切な瞬間なのだ。


「雄太郎くんが顔を上げて生きていくために、きちんとお母さんとお別れをするの」

「でも、怖いんです……っ」

「大丈夫。どんなに突き放されても、家族って簡単には嫌いになれないものだから」

「……わかり……ました。ちゃんと、お袋と向き合いたいから、俺……頑張ってみます」


 自分に言い聞かせるように何度も首を縦に振る彼を後押しするように、私は強く頷いてみせた。


「ほら、この機会を逃すんじゃないぞ。お母さんとの思い出の料理を頭に思い浮かべるだけでいいからな!」


 オオちゃんが両手でメニューを渡す。
 雄太郎くんは戸惑いながらも受け取ると、そっと抱きしめて瞼を閉じた。

 その瞬間に黄金の光がメニュー表から放たれる。次第に明滅するように鎮まって、彼はゆっくりと目を開けた。