「もう、陽太はすぐそうやって話をボイコットする」

「兄さんだって面倒だと思ってるんだろ。だったら放っておいてよ」


 ズルズルと机の下に落ちて行って、それっきり音沙汰なくなってしまった陽太くんに私は水月くんと顔を見合わせて苦笑いした。

 兄や姉の苦労を分かち合うようにお互いの肩を叩き、水月くんと別のテーブルでメニューを磨いていると、そこへオオちゃんを背負った……というよりは、しがみつかれている那岐さんがやって来る。


「おお、那岐。大きな荷物背負ってるね」


 カラカラと笑いながら、楽しそうに言う水月くんを那岐さんはギロリと睨みつけた。

「水月、お前が代われよ。キッチンの片づけがしたいのに、次から次へとオオカムヅミが物を出すから一向に終わらねえ」

「ぬぬっ、僕は手伝っていただけだぞ!」


 ひょこっと那岐さんの肩口から、オオちゃんが顔を出した。

 オオちゃんなりに頑張ろうとしていたみたいだけど、残念ながら裏目に出ていたようだ。

褒められると思っていたのに怒られて、オオちゃんは泣き出す前の子供のように顔をくしゃくしゃにしている。 

 見かねて「じゃあオオちゃんはメニュー拭くの手伝って」と声をかけた。すると、見るからに目を輝かせて私の隣に座る。


「灯、全部僕が拭くから見てるんだぞ」


 鼻息荒く水月くんの真似をしてメニューを拭いていくオオちゃんに「うん」と答えながら、こっそり那岐さんを見上げる。

 口パクで『助かるって、言ってあげてください』と頼むと、嫌そうではあるがオオちゃんの頭にぽんっと手を乗せた。