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 午後九時、私は那岐さんと一緒に黄泉喫茶へやって来た。

 真っ先に制服に着替えて、布巾でテーブルを拭いていく。

 そして、店内の一番奥の角席にやってくると、机に突っ伏していた陽太くんが怠そうにノロノロと顔を上げた。


「汚れるほど客来てないのに……なんで掃除?」

「なにもしてなくても、埃は積もるの。陽太くんこそ、ずっとここでダラダラしてたら、脳みそが溶けちゃうよ」


 つい、妹の茜にしていたような説教をしてしまう。案の定、陽太くんはあからさまに不快だと言いたげな顔をした。


「……余計なお世話」

「こらこら、灯ちゃんの言う通りだぞ。陽太も手伝えって」


 メニューの山を陽太くんの前に置いたのは水月くん。これを拭けとばかりに弟に布巾を差し出している。

 お節介がふたりに増えたことで、陽太くんの苛立ちは最高潮に達した。唇を突き出すと、水月くんの手からむしるように取った布巾を投げて突っ返す。


「うるさい、兄さんには関係ない」


 ふてくされたようにそっぽを向いて、再び机に突っ伏す陽太くんを放っておけない。

それはきっと正論に言い返せなくなって拗ねるところとか、素直になれなくて人を邪険にしてしまうところとかが、手のかかる妹の茜と重なって見えるからなんだろう。

 私の隣で、水月くんはため息をついた。