会計を済ませてお店を出ると、やたら外が騒がしかった。
 私は支払いも任せて勝手に出て行った茜に絶対に文句を言ってやると息巻いて、家の方角へ足を進める。

 そして、ちょうど商店街のアーケードを抜けた先、目に染みるような青空の下。いつもなら川のように流れる車の群れが一か所、滞っているのに気づく。

 空気が張りつめる中、私はそこへ向かって進んだ。
地面が沼にでも変わってしまったかのように、足が重くなる。のっそり、のっそりと歩いて、ようやく〝それ〟を目の当たりにする。


「う、そ……」


 目を背けたいはずなのに、私は横断歩道の血だまりの中で倒れている彼女から目をそらせずにいた。だって、そこにいたのは――紛れもなく、妹の茜だったから。

***

――二年後。
 七月の半ば、私はハンカチで汗を拭いながら東京から島根県東出雲町の中心地、揖屋町(いやちょう)へやってきた。

 私がはるばる七時間半かけてここへ来たのには、理由がある。

 国道九号線から約三百メートル南方にある小丘に、あの世の住人に会える喫茶店があると聞いたからだ。

 その噂を耳にしたのは三日前、二年務めた病院を辞めるの日のこと。

 おこがましいけれど、私は看護師として多くの人を救うために心を尽くしてきたつもりでいた。

いいことをしていれば、必ず自分に返ってくる。それが母の口癖だったから。