それに疑問を抱くことすら許されず、実行せざるおえなかった人々を思えば、いかに自分が恵まれた時代に生まれたのかに気づかされる。


 私はおかしいことはおかしいと、意見しても罰せられない自由な思想を持つことを許された環境で育った。


 でも、正一さんや千代子さんが生きた時代は自分の意志など口にしたら、命を奪われる可能性もあったのだ。


 女性や妊婦や子供。か弱い立場にいる人間が戦わなければならないなんて、恐ろしい。


惨いなんて言葉では言い表せない光景を想像して、震えがおさまらない手指をさすっていると、正一さんは自嘲的に笑う。


「俺たちの任務は爆雷を背負い、敵の戦車のキャタピラにわざと引かれるように体当たりすること。まあ……多くはたどり着く前に射殺されたけどね」

 耳を塞いでしまいたいけれど、正一さんや千代子さんが生き抜いてきた時代があったから今の平和がある。そう思うと、聞き届けなければならないような気がした。


「そうやって命を賭けて戦っても、支給はピンポン玉程度の握り飯を一日一個だけ。気力は底をつき、友達の手足や頭が吹き飛んでも悲しめなくなった。自分が死ぬことへの恐怖もない。感情が擦り切れたところに終戦したと聞かされて……」


 言葉は途切れたが、その先の沈黙にやるせなさや憤りが詰まっている気がして、胸が締めつけられる。

 まるで正一さんの感情が流れ込んでくるようで目を伏せると、千代子さんが言葉にならなかった思いを汲み取るようにぽつりと呟く。