「それほど……でも……」


 褒められて恥ずかしくなったのか、どんどん語尾の声量をしぼめていき、陽太くんは机の下に隠れてしまう。


「え、防災訓練?」


 思わず突っ込む私に、水月くんが困り顔で頭を掻いた。


「陽太は極度の人見知りで、照れ屋なんだよ」

「ああ……いろいろ拗らせてるんだね」


 人間不信の弟を持つ兄になんて声をかけていいのかわからず、曖昧に返事をしたら「でしょ」と水月くんが笑う。

その表情が心なしか陰っているように見えたのは、私の気のせいだろうか。 

 じっと彼の顔を見ていると、その思考を断つように正一さんが話を続ける。


「地上戦になった沖縄戦は老人や女性、子供までをも戦場に送り込んだ。中には妊婦も米軍に突撃して、お腹の赤ん坊とともに手榴弾で自爆したこともあったんだ」


 それを聞いたとたん、身体中に戦慄が走った。無意識のうちに隣に立っている那岐さんの腕の辺りの服を握り、私は戦時中のあり得ない常識に言葉を失う。

 そんな私をちらりと見下ろした那岐さんは「紙より命が軽い時代だな」ともらした。

 テレビの終戦記念ドラマの受け売りだが、軍人の行動規範に『生きて虜囚の辱めを受けず』というものがあったらしい。

言葉通り捕虜になることを拒否する思想のことで、それは軍人の枠に留まらず、民間人にも浸透して玉砕や自決の原因になったとも言われている。