「ここは、思いの力を強く反映する」


 魔法みたいだと目を見張っている私に、那岐さんは視線をふたりに注いだまま、小声で説明してくる。


「正一さんから告白されたときのことは、ばあさんの中で色濃く残る思い出なんだろう。見た目は記憶に乗じて変化してるが、中身は老夫婦のままだ」


 私のときとは、少し違うんだな。

 茜はあの日の記憶のままだったけれど、私はこの黄泉喫茶に来た日の私で、一年前の私ではなかった。

過去の私になって、会う必要がなかったからかもしれないけれど。

 でも、おばあさんには過去の姿で会いたい理由があるのかな?

 みんながみんな変われるわけじゃないけれど、この喫茶店では望めば心残りから止まってしまった〝ある時〟の姿で会いたい人に会えるのかもしれない。


「これは夢なんだろうか。また千代子に会えるだなんて」

「正一さん、ここは会いたい人に会える喫茶店なんですよ」

「そうか、不思議な場所だ。なんにせよ、十年ぶりにまた会えてうれしく思う」

 十年ぶりということは千代子さんと同い年だったと仮定して、七十八歳くらいで他界したということだろう。 

「思い出すな、千代子と純喫茶でハヤシライスを食べたときのこと。あなたに告白する機会を今か今かと伺って、無心にスプーンを口に運んでいたから……正直、味もうる覚えだ」

「ええ、本当に。さあ、せっかくだからいただきましょうよ」

「そうだな、いただきます」


 ルーポットを傾けてルーを流し込むと、正一さんはライスと絡めて口に運ぶ。暑いのか、何度か口をほくほくとさせて湯気を吐きながら飲み込んだ。