「雑貨屋でもしっかり社員になって働くとかならわかるけど、店長にはなりたくない、なにも考えない仕事がいいなんて、そんな仕事ないからね」
茜が鬱陶しそうにしているのは気づいていたが、この話をしだすとどうも止まらなくなる。
本人に危機感はないが、母も四十七歳と高齢なのでそろそろ自立してもらわないと困るのだ。
「今はレジだって機械がやってくれるし、受付だってタブレットがしてるところもあるんだよ? 今は手に職がないと、生きていけない時代なんだからね。お母さんも心配してるし、いい加減――」
ついつい、説教を続けてしまう私に茜はとうとう「うるさいな!」と逆上する。勢いよく席を立って机に手をつくと、私の方へ身を乗り出してきた。
「毎日毎日、同じ話ばっかり! 私だってバイトで疲れてるのに、今その話をしなくたっていいじゃん!」
「今しなくていいって言っても、茜は私がこの話をすると怒って逃げるじゃない」
ここで私が引き下がればこの喧嘩も終息するのだろうが、茜と似て負けず嫌いな上に頑固な性格が優位になる。私は踏み止まれずに言い返してしまった。
「お姉ちゃんはさ、料理もうまくてお母さんにいつも褒められてたよね。看護師にもなれて、なんでもできて……。私みたいなできそこないの気持ちなんて、わからないんだよ!」
そう言って茜は鞄に携帯をしまうと、自分の分のお金だけ置いて席を離れていく。
「茜、待ちなさいよ!」
私も慌てて鞄を肩にかけ、伝票を手に遠ざかる背中を追いかけた。机に食べかけのオムライスをふたつだけ残して――。