「仕事に忙殺されちゃってたんだな、いろいろ」
小声で呟きつつ、子供の頃にお母さんの食堂を手伝っていたときのことを思い出す。
常連さんの『灯ちゃんの作ったご飯を食べると、仕事も頑張れるよ』って言葉がうれしくて、料理ひとつでこんなにも人を元気にできるんだって、子どもながらに感動してたな。
感慨深い気持ちで牛肉を焼いている私の隣では、那岐さんがハヤシライスの煮汁を作っていた。
鍋に残り半分のバターを敷いて、私が切ったニンニクと玉ねぎを炒めている。
そのふたつがしなって飴色になってきたところで、鍋にマッシュルームを加えた彼がこちらを横目に見た。
「牛肉、こっちに入れるから貸せ」
「あ、はい」
那岐さんの方にフライパンの取っ手を向ける。彼はフライパンから鍋に牛肉を移し、赤ワインと水を二分の一カップ注いで強火にかけた。
「煮立ったらアクを取れよ」
そう言って、お玉を渡してくる那岐さんは調味料を用意しながら淡々とした指示を続けていく。
「トマトケチャップ大さじ四杯に、ウスターソース大さじ一杯。ローリエ一枚、塩を小さじ一杯にコショウ少し入れて蓋をしろ」
「まるで、お経のようですね……」
調味料の名称だけが羅列された那岐さんの言葉に、目が回りそうになる。
ハヤシライスって、こんなに隠し味が入ってるんだな。
小声で呟きつつ、子供の頃にお母さんの食堂を手伝っていたときのことを思い出す。
常連さんの『灯ちゃんの作ったご飯を食べると、仕事も頑張れるよ』って言葉がうれしくて、料理ひとつでこんなにも人を元気にできるんだって、子どもながらに感動してたな。
感慨深い気持ちで牛肉を焼いている私の隣では、那岐さんがハヤシライスの煮汁を作っていた。
鍋に残り半分のバターを敷いて、私が切ったニンニクと玉ねぎを炒めている。
そのふたつがしなって飴色になってきたところで、鍋にマッシュルームを加えた彼がこちらを横目に見た。
「牛肉、こっちに入れるから貸せ」
「あ、はい」
那岐さんの方にフライパンの取っ手を向ける。彼はフライパンから鍋に牛肉を移し、赤ワインと水を二分の一カップ注いで強火にかけた。
「煮立ったらアクを取れよ」
そう言って、お玉を渡してくる那岐さんは調味料を用意しながら淡々とした指示を続けていく。
「トマトケチャップ大さじ四杯に、ウスターソース大さじ一杯。ローリエ一枚、塩を小さじ一杯にコショウ少し入れて蓋をしろ」
「まるで、お経のようですね……」
調味料の名称だけが羅列された那岐さんの言葉に、目が回りそうになる。
ハヤシライスって、こんなに隠し味が入ってるんだな。