「灯、これに着替えるといいぞ」


 渡されたのは黒の膝下ワンピースとフリルがついた白の腰巻エプロン。首元には赤いリボンがついていて、ウエイトレスのような制服一式だった。 


「わあ、可愛いね」


 前職では白衣が基本だったので、こういうお洒落な制服の仕事に憧れていた時期もあった。

――いや、現在進行形で着てみたいという願望がある。


「本当だ、灯ちゃんに絶対似合うよ。那岐もそう思うよね?」


 私の手元にある制服を覗き込んでいた水月くんが、いちばん聞いてはいけない人に同意を求める。

 だって、彼が賛辞を口にするところなんて想像できないし、『馬子にも衣裳』『豚に真珠』と言われるのが関の山だ。

 そう思っていたのだが、那岐さんは「知らん、俺に聞くな」と言って、さっさとカウンターの方へ歩いて行ってしまった。


「素直じゃないな」


 ボソリとこぼしたのは陽太くんだった。

 どういう意味かはさて置き、私を貶さなかったことに驚きだ。彼は口を開けば言葉の凶器が無限と飛び出る、生きた武器庫だから。 

 那岐さんのらしくない態度にすっきりしない気持ちになりながら、私はバックヤードに回って制服に着替える。

 支度を終えて店内に出るのと同時に、喫茶店の扉が開いた。