「だ、大丈夫ですか?」

「問題ない、お前は台所にある鮭を持ってこい」


 早口でそう言うと、那岐さんは私の横を通ってテーブルの上にお碗を並べる。

彼の様子がおかしかったので気にかかったが、話しかけるなオーラが見えた気がしたので大人しく台所に向うことにした。


「あの、那岐さんはここにひとり暮らしなんですか?」


 目の前に並ぶだし巻き卵やほうれん草のおひたし、焼いた鮭に豆腐とネギのお味噌汁といった定食並みのメニューをありがたく頂きながら、目の前に座る那岐さんに尋ねる。


「両親は若いときに俺を産んだから、まだまだ遊びたかったんだろう。とっくの昔に俺を置いて蒸発したからいない」

「蒸発って……」


 ある日、突然いなくなったってことだよね?

 私もシングルマザーの家で育ったからわかる。たとえば、幼稚園のお迎え。お母さんは仕事で忙しくて、私はいちばん最後だった。

 そして、小学校の運動会。昼は親と一緒に食べるのが恒例だったのだけれど、食堂はお昼時がいちばん混むので、お母さんはこれなかった。

みんなが家族に囲まれているのを羨ましく思いながら、ひとりで食べたお弁当は味気なく感じたのを覚えてる。

 片親がいないだけでも、周りの子とは違うんだって寂しい思いをした。

 お母さんが大変なのはわかる。

でも、働いてくれているありがたさを知るのなんて、大人になってからで、子供時代は常に心に北風が吹いてるような思いで過ごしていた。

 それが両親ともいなくなるなんて、想像もつかない孤独感があったことだろう。