土間と履物を脱ぎやすくする台代わりの沓(くつ)脱ぎ石、上がり框(かまち)のある玄関前を通って八畳続きの居間に行く。

ここは庭に面した縁側が隣にあるので、緑の葉をつける紅葉や桜の木が目の保養になる。

縁側につり下げられた風鈴の音も、エアコンのない部屋を涼しくしてくれているようだった。


「起きたなら、運ぶの手伝え」


 広間の入り口に突っ立って、庭を眺めていた私の背後から声がかかる。振り返れば、紺色の浴衣の上から白いエプロンをつけた那岐さんが立っていた。

 あ、那岐さん、寝癖がついたままだ……。起きてすぐに、朝食を作ってくれてたのかな。

 私は那岐さんのそばに歩いていくと、ぺこりと頭を下げる。


「おはようございます、那岐さん」


 挨拶もそこそこに、私はほとんど無意識に背伸びをして、彼の跳ねた髪を手櫛で直してあげる。
すると、那岐さんは目を見張ったまま身を固くした。

 彼の手には白米がつがれたお碗がふたつ、お盆の上に乗っている。それがゆっくりと横に傾いていくのが見えた私は慌てて、お盆を支えるように持った。