「ううっ……茜っ、茜っ……」


 これがもう一度失う痛みかと、想像を絶する喪失感に耐える。そんな私の背に手が添えられた。顔を上げると同時に手が離れて、代わりに那岐さんがカップを差し出してくる。

 それを受け取れば、中には包み込むような白い湯気が立ったカフェオレが入っていた。

そのミルクの柔らかい香りに引き寄せられるように口をつけると、ぬくもりが全身に広がっていく。

ほんのりとした甘さが心の穴を優しく塞いでくれているようだった。


「ありがとうございました」


 悲鳴を上げていた心が落ち着いてきたところで、喫茶店のみんなに頭を下げる。

 ここに来たおかげで、心が嵐のあとの澄み切った空のようにすっきりとしていた。


「満腹になったなら、帰れ」


 出口を指さした那岐さんの言葉は乱暴だが、声音は柔らかい。

 心もお腹も満たされた私は、立ち上がってお財布を出す。すると水月くんが両手を顔の前で振った。


「お金はかからないよ。ここはタダだからね」

「えっ、黄泉喫茶って慈善事業なんですか?」 


 私は目を見張りながら、お財布を鞄に戻す。私の実家の食堂も経営が立ち行かなくなって潰れてしまったので、他店のことだが心配になった。

 そんな私の疑問に答えてくれたのは桃の神様、オオちゃんだ。