どうしてあのとき、他の言葉をかけてあげられなかったのだろう。

 もっと、一緒にいる時間を楽しく過ごせなかったのだろう。

 後悔は噴水のように次から次へと吹き上げてきて、戻らない時間に嘆いてばかりだ。

 思い出すのはいつも同じ場面。あれはこじんまりとした商店街の一角にあるレストランで、私――伊澄灯が妹の茜(あかね)とオムライスを食べていたときのこと。


「んーっ、トマトの酸味が染み渡る」


 このお店に来たら絶対と言っていいほど、私は『トマトスープオムライス』を頼む。

鶏ももや玉ねぎがゴロゴロとたくさん入ったチキンライスに、黄金色で半熟のふわとろ卵の舌触りと言ったら絹のように滑らかだ。

 オムライスという島の周りに広がるトマトスープの海。ざく切りされた形の残っているトマトが酸味を失わせず、さっぱりとして飽きさせない。

 そして、なんといってもスープだ。ジャガイモが入っているから、スープがトロトロしていて、オムライスによく絡む。

 ほくほくと湯気を吹きながらオムライスを口に運んでいると、携帯を弄ってばかりいた茜が頬杖をついて呆れたように私を見た。


「お姉ちゃんってさ、発言がババくさいよね」

「うるさいな。というか、食べてるときくらい携帯いじるのやめなよ」


 二十三歳である私とふたつ違いの茜は最近、携帯アプリのリズムゲームにハマっている。

一日一回ログインしなければ利用券がもらえないだの、今はイベント中だから手が離せないだの、まるで仕事であるかのように分刻みでゲームをしていた。

 現に「ゲームしないと」が口癖で、義務感に囚われているところを見ると、妹は二十四時間三六五日、携帯という魔物に支配されている。