「水で薄めてないから、野菜のありがたみをいっぱい感じられそうですね。それに水っぽいと、オムライスに合わないですし……」


 そう、私の記憶の中にあるトマトスープもこんな感じだった。料理名に触れただけでレシピがわかるというのも、あながち嘘じゃないのかもしれない。

 同時進行で料理ができて、グラムも目分量。料理をしていれば重みと視覚からの情報で、大体の量はわかる。巷で流行っている料理男子とは、彼のことを言うのだろう。

 私が感激している間にも、那岐さんはボールの中に卵をふたつ割って塩をかけたものをを溶く。どうやら、オムライスを作るらしい。

 油大さじ一杯とバターを一五グラム熱したフライパンの中に、那岐さんは卵液を入れて焼く。

土台がある程度しっかりしてきたら、そこへ出来上がったチキンライスを入れてくるっと包んだ。


「お見事!」


 つい相づちをつくと那岐さんの冷徹な目がこちらに向いて、私はそろそろと明後日の方法を見る。

 その間にも那岐さんは深めのお皿にオムライスを移し、ドロッとしたトマトスープをかけていた。

トマトのいい香りが喫茶店に広がり、もくもくとあがる湯気は見ているだけでほっこりする。


「できたから、席につけ」


 那岐さんが顎をしゃくって席を指したので、私は頷いて案内されていた椅子に腰をかけた。すると、すぐに水月くんが料理を運んでくる。

 彼の手にあるのは、ふたり分のトマトスープオムライス。まずは、そのうちのひとつが私の前に置かれた。