「お客様、メニューをお預かりしますね」

「あ、はい」


 メニュー表を目の前の手に載せると、水月くんはそれを持ってカウンターにいる那岐さんに渡す。

 那岐さんはメニュー表を開いて【トマトスープオムライス】の文字を指でなぞった。その瞬間に「理解した」と短く言い放ち、メニュー表を閉じる。


「オムレツの中は鶏肉の他に玉ねぎとしめじ、人参とニンニクが入ったチキンライスか」


 見事にライスの具材を言い当てた彼はそそくさと鶏ももを切り、塩をふって下味をつけ始めた。


「那岐は料理名を指でなぞっただけで、レシピを理解できるのだ」

 誇らしげに説明したのはオオちゃんだ。

「そんな宇宙人みたいなことができるの!?」

 なんて便利な能力なんだろう。

 さっきから立て続けに信じられない話を聞かされたおかげか、私は那岐さんが超能力者でも動揺はしなくなっていた。

 私、意外と適応能力が高いのかもしれない。

 そんな自画自賛をしながら、食堂を手伝っていた身としては彼の手際が気になって、私は席を立つ。

カウンターに向かうと、那岐さんは手早く玉ねぎを二分の一、にんじんを四分の一にあられ切りにしていた。