「災難な一日だった」


 陽太くんの一声に、皆は各々頷いた。

 あのあと、黄泉平坂にいた私たちはみんなで一緒に鳥居を潜り、黄泉喫茶に戻ってきた。

広い店内のひとつのテーブル席に集まって、私たちは余った材料で作った桃のシャーベットを食べつつ、ぐったりとする。


「まあ、俺は黄泉喫茶の外に出たのは久々だったから、ちょっと嬉しかったけどね」


 水月くんのプラス思考ぶりに「現金」と陽太くんが呆れる。

 外に出られないはずの水月くんと陽太くんが黄泉平坂にいられたのはオオちゃん曰く、一時的にイザナギの魂を持つ那岐さんが黄泉の国に落ち、喫茶店が消滅したせいだろうとのことだった。

 黄泉喫茶の存在はイザナギが自分たちのように死者と生者が未練を残したまま別れることのないように、と作ったものらしい。

 なので、その魂を持つ那岐さんがいなくなれば、この喫茶店も形を保っていられなくなる。

つまり、喫茶店の掟――共食をすれば喫茶店から出られなくなるという決まりも一時的に破棄された状態だったらしい。


「僕は役に立ったであろう!?」


 オオちゃんは拳を握り、褒めてとばかりにみんなの顔を見て回るが、陽太くんが「桃を実らせただけじゃん」とまたもや切り捨てる。

 それに喧嘩が始まったのは言うまでもないので割愛するが、私は改めてみんなの顔を見渡した。


「水月くん、陽太くん、オオちゃん、それから……那岐さん。不可抗力とはいえ黄泉の国までついてきてくれて、ありがとう」


 黄泉の国に落ちていく私を自分の身を顧みず助けてくれた彼らには感謝しかない。

 巻き込まれたと私を責めることなく、こうして仲間に入れてくれる。彼らの存在を友達、家族、どんな関係で呼ぶのかはわからないが、しいて言うなら私の帰る場所だ。