「これ、どうやって開けるんだ」


 焦った様子で那岐さんが岩に触れた途端、岩は砕ける。

 それに「「おお、神様パワー」」と水月くんと陽太くんの声がシンクロする中、オオちゃんは黄泉平坂の麓に生えた桃の木に触れる。

それはひとつも実をつけていなかったというのに、オオちゃんが触れた瞬間にみずみずしく丸い桃がなった。


「那岐、これを投げるんじゃ!」


 オオちゃんから桃を受けといった那岐さんは、すぐそばまで迫った黄泉の軍勢に向かって桃を投げる。

 すると、黄泉の兵たちは悲鳴をあげながら後ずさった。桃があたった兵の腕や顔から湯気が出て、心なしか溶けている気がする。

 グロテスクな光景から目を背けていると、オオちゃんは私の手を握る。


「岩戸は脆くなっていたようじゃ。だから、黄泉の国から地上にいるおぬしを引きずり込めたのだろう」

「じゃあ、壊しちゃまずいんじゃ……」


 今しがた那岐さんの神様パワーで粉砕した岩戸を見て、血の気が引く。

迫りくる黄泉の兵の足音を前に呆然と立ち尽くしていると、オオちゃんは私と那岐さんの手を繋がせた。


「岩戸は黄泉と地上を隔てる大事な境界線なのだ。ゆえに新しい岩戸を造る必要がある。それは創造の力を持つイザナギとイザナミの魂を持つ、おぬしらにしかできぬぞ」


 息巻くオオちゃんに那岐さんは「なにをどうすればいい」と問う。腹をくくった彼に感化されるように、私も恐怖に波立つ気持ちを鎮めて耳を傾けた。


「念じればよい。おぬしらの想像力がより重なれば、具現化する」

 迷っている暇も疑念を持つ猶予もなかった。

私は那岐さんと手を繋いで、黄泉の国への道を塞ぐ大きな岩を思い浮かべる。

 思考を邪魔する焦りも意識の外に追い出して、私はただ頑丈な岩戸を想像をする。