「ここが黄泉の国? 黄泉喫茶の面々で仲良く旅行に来れたのは嬉しいんだけどね……」

 立ち上がって辺りを見渡している水月くんは灯篭の中を覗き込んだり、壁を叩いたりしている。

「それが死後の世界って、微妙。ねえ、神様パワーで脱出できないわけ?」

 兄の隣でげんなりしていた陽太くんが私とオオちゃんを見る。その目には好奇心と期待も混じっているような気がした。

「僕は魑魅魍魎、鬼を退ける力はあっても、黄泉の国から出る方法は知らんぞ。神とて、万能ではないのだ!」

「オオカムヅミ、無能」

「なんだとーっ、そんなこと言ってると鬼に襲われても陽太のことは助けんぞ!」

「え、イザナギに地上の人間助けろって言われたんじゃなかったっけ? もう約束守るんだ。無能なだけじゃなくて嘘つきなんだね、神様って」

「むむむっ、陽太は死者じゃろう! ゆえに、地上の人間に該当しないのだ」


 まるで子供のような言い合いをしいているふたりに脱力していると、陽太くんが私の顔を覗き込む。


「灯はなんかできないわけ?」


 もしかして、陽太くん。空を飛ぶとか、ドラゴン召喚して地上に戻るとか、そういう特殊能力に憧れてたりして……。

それならがっかりさせて悪いけど、私は料理が取り柄のただの人間だ。


「神様の生まれ変わりでも、今はただの凡人だよ。特技は料理、看護師だったから応急処置ができるくらいです」

「つまんないね」


 陽太くんは私になにを求めていたんだろう……。

 バッサリと言い捨てて、私から興味を失った陽太くんが水月くんと一緒に探索を始める。
喫茶店にいるときと変わらない光景に、なぜだか頬が緩む。