「私も……本当はここであなたに会えたとき、いちばんに言いたかった言葉があるの」


 イザナミは夫の手を握り返し、その瞳を見つめ、しっかりと口にする。


「あなたに会いたかった」

「もう離れずにいよう、イザナミ。我らは夫婦なのだから」


 ふたりは手を握り、微笑み合うとシャーベットを食べ進める。

 やがて最後の一口になったとき、イザナミは胸に手を当てた。


「伊澄灯、私にイザナギと話す勇気をくれて礼を言うわ。どうか、社那岐との縁を切らずにいてちょうだいね。」

「社那岐、我らの願いに突き合わせるようで申し訳なくはあるが、できるだけ伊澄灯のそばで生きよ」


 「どうか」「申し訳なくはある」と言いながら、ちゃっかり命令しているふたりに私は心の中でくすっと笑ってしまった。

 なにはともあれ、仲直りしたようでよかったと思っているとふたりは最後のひと口をのせたスプーンを持ち上げる。


「伊澄灯、社那岐ありがとう」

「我らの分まで、幸せになるがよい」


 祝福の言葉を残し、ふたりはスプーンを口に入れる。ひんやりとしたシャーベットが喉の奥に流れ込むと、スッと身体の自由が自分の元に戻ってくる感覚があった。


「これでもう、夫婦喧嘩に巻き込まれることはなさそう……ですね」

「ああ、本当にはた迷惑なヤツらだ」


 この世界を生み出した神様相手に、随分な物言い……。 

 那岐さんは誰に対しても等身大で、そこを危なっかしく思うのと同時に魅力的だとも思うのは、イザナミとイザナギが「一緒にいろ」などとお膳立てしてきたせいかもしれない。