「どうして私の名前を?」
「伊澄灯、僕は神様だからなんでもわかるのだ。他にも年齢は二十三歳、シングルマザーの家庭に生まれ、幼い頃から食堂で働く母の代わりに家事全般を行っていたしっかり者の料理上手。妹がなくなったことがきっかけで看護師をやめ、今は絶賛休職中だな」
私のプライバシーって、どうなってるんだろう。
神様になんでも見られているなら悪い行いはできないなと自身の素行を振り返りつつ、私はメニュー表を手に持つ。
たぶん、私が思い浮かべるのは思い出の料理とは少し違うかもしれない。あの料理は妹との苦い記憶が刻まれたものだ。
私のせいですべて食べきれなかったから、今度は彼女と言い合いではなく普通に会話して完食したい。苦い思い出のままなんて嫌だ。
そんな思いが通じたかのように、メニュー表が黄金の光を放つ。しばし、その輝きに目を奪われていると、静かに明滅しておさまる。
恐る恐るメニュー表を開けば、さっきは真っ新だったのに【トマトスープオムライス】の文字がちゃんとあった。
「すごい、魔法みたい」
白紙だったところに突然現れた料理名を食い入るように見る。
あの日食べたトマトスープオムライスを彼らが作れるのだろうか。口にしたこともないのに再現なんてできるわけないと不思議な店員たちの顔を見渡していたら、水月くんが私に手を差し伸べる。