「桃の雪を食べているみたい……甘さがしつこすぎずにすっきりしているわ。桃にはいい思い出がないけれど、これは好きになれそうよ」

「ああ、口の中だけでなく頭もすっきりしてくるようだ。イザナミ、これをともに食すことができて、我は幸せに思う」


 まっすぐなイザナギの愛情表現に顔に熱が集まるのを感じて、イザナミが照れているのだとわかった。今度は素直に相手の言葉を受け取れたらしい。


「イザナミ、岩で道を塞いだのは黄泉の国の軍勢を現世に出さないためだ。我はお前が幸せにしたいと言った我らの国の生き物たちを守りたかったのだ」

「じゃあ、私が恐ろしくて黄泉の国に閉じ込めたわけではないの?」


 現世に続く道が岩で塞がれたときの絶望感。あれは生き返れないことにではなく、愛する者に拒絶されたと思ったからこその悲しみだった。

 それが勘違いだったと知り、イザナミの凍りついていた心に湯水のように温もりが染み入る。


「それは断じてない。岩の向こうから聞こえたお前の泣き声に、我の胸は引き裂かれそうだったのだぞ」

「そうだったの……それなのにあなたを殺そうとするなんて、私は……心まで黄泉の国の魑魅魍魎と同じく堕ちてしまったのかしら」


 スプーンを置いて、イザナミはテーブルの上で拳を握る。そのまま目を伏せたイザナミの手をイザナギは包み込むように握った。


「お前が何者になろうとも、構わぬ」

「……っ、イザナギ……」

「もう一度会えただけで十分だ」


 ふわりと優しく微笑むイザナギに、視界が歪んだ。頬を伝う雫にイザナミが泣いているのだと気づいた私は、不思議とこれが悲しさからこぼれたものじゃないとわかる。