『…………』


 ――なにかふたりの間で誤解があったなら、好きな人を憎む理由がなくなっていいじゃない。

あなたを突き放した理由を聞いて、あなたがそれに納得できたなら、もうイザナギと離れる必要ないでしょう?

 だって、私は那岐さんとはどんな形であれ、これからも一緒にいるだろうから。


 私と那岐さんの中にイザナギとイザナミがいるのなら、私と彼が離れない限りずっと一緒にいられるということだ。

 前世では結ばれなくとも、今生ではできるだけそばにいて、重ねられなかった時間をともに過ごしてほしい。

 そんな私の願いが届いたのか、イザナミは『これが最期だ』と言って、私を黄泉の国に誘ったときのように、身体を乗っ取ってくる。


 視界も嗅覚も聴覚も共有しているというのに、指一本動かすことが叶わない。

私――イザナミは静かに目の前で目を閉じている那岐さんを見つめていた。


 やがて、那岐さんの纏う空気が威厳さを増し、その双眼がゆっくりと開かれる。