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 どのくらいの時間が流れたのだろう。

 冷たい黄泉の国の岩の道で体育座りをして、膝の間に顔を埋めていた私はふわりと風が吹いた気がして上向く。

 すると、信じられないことに金色の光の粒が私を取り囲んでいた。


「これ……なんだろう、雪みたい」


 無意識に伸ばした手の指が光の雪に触れると、ほんのり温かい。それになんだか安堵感を覚えて、唇を緩めた。

 そのとき、まばゆい輝きに視界が占領されてぎゅっと目を瞑る。

 ――な、なに!?

 私は成す術なく光に飲み込まれ、瞼越しにそれが収まっていくのを感じてから、ゆっくりと開眼する。


 その瞬間、首になにかが抱き着いてきて、耳元で「灯! 無事だったのだなっ」とオオちゃんの声。肩にポタポタと落ちてくる雫に、オオちゃんは泣いているのだとわかって、私はその背中をさすりながら帰ってきたんだと実感する。

 周りを見渡せば、私は黄泉喫茶の座席に那岐さんと向かい合うようにして座っていた。

私たちのテーブルの周りには水月くんと陽太くんが並んで立っており、潤んだ目でこちらを見つめている。


「……ただいま」


 みんなの顔を見渡しながらそう言えば、真っ先に水月くんが「おかえり!」と笑顔を向けてくる。

 陽太くんは一瞬、嬉しそうに表情筋を緩めて、すぐにぶすっと唇をへの字に突き出す。


「大人でしょ、出かけるときは置手紙するとかしなよ」

「ご、ごめんね。出かけるつもりはなかったんだけど、こう……身体が勝手に動いてて、沼に落ちて、黄泉の国にこんにちわって感じだったの」


 意識はあったのだが、身体はイザナミに操られていたので抗えなかったのだ。


「沼に落ちるまでは僕も灯の動きを辿れたんだがな、そこからは気配を感知できなかったのだ。おそらく、沼の底に黄泉の国に通ずる道があるんだろうの」

 私の首にひっついているオオちゃんの説明で、あの沼がやたら深く感じたのは黄泉の国に繋がっているからなのだとようやく腑に落ちる。