「灯、いるのか!?」


 私を呼んでいるのは、紛れもなく那岐さんだ……!

 それがわかった瞬間、私は踵を返して声を頼りに駆け出す。背後から「待て!」と制止する声が飛んできたが、構わず走った。


「はあっ、はっ」


 灯篭に照らされた道はどんどん細く急になり、もつれそうになる足を気力だけで前に前にと進める。


 やがて、視界の先に岩の扉が見えてきて、私は「那岐さん!」と叫んだ。間を置かずに岩の向こうから「そこにいるんだな!?」と返事がある。


 私は力尽きるように、岩の前で倒れこんだ。そのまま這いつくばって扉に近づき、岩に手をつく。


「那岐さん、どうしよう……っ、私……死んじゃったみたいです」

「共食はしたのか?」

「いいえ、今まさにそれをしに行くところでした」

「だったら、絶対に黄泉の国の食べ物を食うなよ? お前は死んでねえ」

「え……? そうなんですか?」


 期待を込めて聞き返せば、那岐さんはすぐに教えてくれる。


「イザナギから聞いた。お前はイザナミに黄泉の国に引きずり込まれただけだ」

「私、イザナミと話しました。イザナミはイザナギやその生まれ変わりである那岐さんのことを恨んでいて、傷つけようとしてる」

「ああ、ふたりになにがあったのかは散々夢に見てきたから知ってる。でもな、イザナギは最後にイザナミを突き放したことをずっと後悔してるんだ」


 ということは、イザナギはイザナミを裏切ったわけではなかったのだろうか。ふたりの間に誤解があったのなら、話し合う必要があるのかもしれない。

 それは那岐さんも同意見だったらしい。