『黄泉の神々に、あなたのもとへ戻れないか相談してみます』

『……そうか! では、我も一緒に――』

『それはいけません!』

『なぜ……』

『私の姿を見られたくないのです。だから、決してこの扉を開けてはなりません』


 扉――岩にそっと手で触れた私は背を向けて、再び念を押す。


『約束ですよ』

『ああ、わかった』


 イザナミは来た道を戻り、黄泉の神々がいる御殿に向かう。

 天の神に簡単に会えないように、黄泉の神に会いに行くのも簡単ではない。目的地までは信じられないほど長い道のりだ。

 どこまで、何時間、何日、進んだだろうか。『どこにいるんだー!』という声が聞こえて、足を止めたイザナミが振り返ると――。


『イザナミ、やっと見つけ……』


 長い黒髪を揺らし、金色の帯や豪華な浅葱色の着物を身に着けているイザナギの表情をが徐々に青くなる。


『ああ、なんてことだ……』

 彼はイザナミの姿を見て、後ずさった。

 イザナミは自分の姿が変わり果てていたのを知っていたはずなのに、またイザナギの声を聞けた嬉しさから忘れていた。

 ふと足元にあった地面の水たまりを覗き込む。そこには落ち窪んだ目からウジがわき、身体の至るところが腐り果て、右肩から自分とは別の雷神の顔がボコボコと八体も出ている自分の姿が映っている。