『お願いだから追いかけてこないで』


 目の前には愛する人への道を塞ぐ冷たい岩。

その向こうにいるイザナギに会いたい気持ちを必死に押し殺して、イザナミは突き放すような物言いをする。

 しかし、イザナギは引き下がらなかった。


『我は自らの子――ヒノカグツチをこの手にかけ、それでも悲しみは晴れず、こうして黄泉の国までお前を迎えに来たというのに、なぜすぐに顔を見せてはくれないのだ……!』 

『なんてこと……』

『一緒に帰って、再び我らの国を作ろう』


 縋るような声に涙をこぼしたイザナミは岩に手をつき、ずるずるとその場に座り込んだ。


『ごめんなさい、それはできないわ。共食は済んでしまったから……』 

『なんだと……っ。いや、だとしても、我が無理やりにでもお前を連れ帰る』

『それはダメよ。簡単に理を変えてはいけない』

『お前は諦めるのか? 我はお前に触れたい、ともに生きたいとそう思っている。お前は同じ気持ちじゃないのか?』

 嬉しい気持ちと追い返さなければならないという理性とがせめぎ合い、長考したイザナミは途方もない沈黙のあとに決意する。