「え? ああ、言いましたけど……あのときは私も焦ってたので、そう感じただけかもしれません」

「ここは黄泉の国と隣り合わせの場所なんだぞ、勘違いで片づけるのは危険だ。ただでさえお前は黄泉の国とゆかりがあるんだ。もっと警戒心を持て」

 言い方はあれだけど、もしかして……。

「心配してくれてます?」

「自意識過剰なやつだな」


 そうは言うけれど、彼はきっと私の身を案じてくれたのだろう。これまで危険な場面では守ろうとしてくれたし、体調が悪ければ人目も気にせずおぶってくれる人だから。

 私はこれ以上突っ込むと那岐さんの機嫌が悪くなりそうなので、「めんたいの他に卵焼きになにを入れたら、おいしくなると思う?」と話題を変えて皆との夕飯を楽しんだ。



***

 家に帰ってきて早々に、三八度もの高熱を出した私は那岐さんが居間に敷いてくれた布団に横になっていた。

 なんでも、自室だと看病しにくいだからだそうだ。理由はなんとなく、これでも私を女性だと気遣ってくれたからかもしれない。


「前髪、あげるぞ」


 熱に浮かされてうんうん唸っている私の額に、那岐さんは氷水に浸して絞った手ぬぐいを載せてくれた。


「すみません、私……これでも看護師だったのに、風邪ひいてたの……気づかなかった」

「人に気を遣う仕事についてるやつは大抵、自分のことには無頓着なんだよ。お前がいい例だろ。間接的にではあるが、沼に落ちたのは霊のせいなのに、お前は霊を説得してやがった。お人よしにもほどがある」


 呆れ交じりの物言いではあるが、私の額に触れる手は優しい。

 前にも、こんなことがあったな。お風呂でのぼせて縁側で休んでいたとき、目が覚めると那岐さんは私のことをうちわで扇いでくれていたのだ。