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 本木さんが帰ったあと、全員で夕食を黄泉喫茶でとることにした。


「無事に終わって一安心じゃの!」


 私と那岐さんの間に座っているオオちゃんがにこにこしながら、めんたい卵焼きをぱくっと食べる。
 その向かいでは烏場兄弟が大根サラダをつついていた。

 サラダを食べるタイミングまで、兄弟なんだな。

 微笑ましくその光景を眺めていたとき、くしゅんっとくしゃみが出た。とっさに口元をおしぼりでおさえると、目の前に座る水月くんが気遣うような眼差しを私に向けてくる。


「大丈夫? 沼に落ちたんでしょ? 着替えたとはいえ、身体は冷え切ってるんじゃない?」


 本木さんと時枝さんの逢瀬を最期まで見届けたかった私は、濡れたワンピースのまま数十分を過ごした。


 言われてみると喫茶店の制服に着替えたというのに、さっきから寒気がする。
 でも、エアコンがきついわけでもないし、こんな夏にあのくらいの水浴びで風邪をひくはずがないか。


 さほど気にも留めず、私は「大丈夫だよ」と返して、あさりのお味噌汁を啜った。

 すると、またもや水月くんと同時にめんたい卵焼きに箸をつけた陽太くんが軽く首を傾げる。


「そもそも、なんで沼に落ちたの?」

「時枝さん、喫茶店を出たら靄に戻っちゃってたの。声が聞こえるのは私だけだから、意識を集中させてたら集中しすぎて足を滑らせて、ジャボンッと」

「どんくさ」


 グサッと陽太くんの言葉が胸に刺さって、私は「うっ」と情けなさからうめく。

 あのときは周りが見えなくなっていたから、随分と那岐さんに心配をかけてしまった。