「残り時間一〇分、ぎりぎりセーフだね!」


 出迎えてくれた水月くんがほっとしたように表情を緩めて、オオちゃんや陽太くんと顔を見合わせる。

 オオちゃんは複雑な顔をして喫茶店の入口に立ちつくす時枝さんのスーツの袖を引き、「座るんじゃ」と本木さんの前の席に促した。


「ふたりはこれ、とりあえず拭けば?」


 陽太くんがびしょ濡れの私たちにタオルを差し出してくれる。

 私は「ありがとう」と陽太くんからタオルを受け取りながら、残された時間が少ないのにも関わらず黙り込んでいるふたりを見つめた。

 一分の沈黙が数時間に感じられるほど張り詰める空気の中、時枝さんは耐え切れずといった様子で嗚咽をもらす。


「……本木さん、あのとき……どうして、私は間違ってないって言ってくれなかったんですか……っ」


 時枝さんの両目に涙が盛り上がり、ぽろっとこぼれ落ちた。
 それを見た本木さんは自分が泣いているみたいに傷ついた顔をして、震える息を長く長く吐き出す。


「……『そのままの時枝のスタイルでぶつかっていけばいい』なんて、無責任な言葉をかけるべきじゃなかった。あのとき、お前が孤立しないようにもっと……なにか、できたはずだって、そう思ったら……間違ってなかったなんて言えなかったんだよ……っ」


 ふたりの涙声が店内に寂しく響く。ふたりの間にあるのは険悪な雰囲気ではなく、底の見えない沼のような後悔と悲しみだ。

 お互いに口を開いては閉じを繰り返し、テーブルの上で拳を握りしめた本木さんは意を決したように時枝さんを見据える。