「時枝さん、本木さんはあなたの頑張りを認めていました。でも、自分がアドバイスしたせいで、あなたがより孤立してしまったんじゃないかと自分を責めてもいた」

『嘘よ』


 靄はかぶりを振るように、大きく左右に揺れる。


「嘘じゃない。あなたの『私は間違ってますか?』の問いかけに『そうだな』って言ったのも、あなた自身を否定したんじゃなくて、あなたに辛い道を歩ませてしまったことに対する『そうだな』だったんです」


 時枝さんと本木さんのすれ違った思いを繋げるために、絶対に時枝さんを連れ帰ろう。その一心で、私は声をかけ続けた。


「言葉にはいろんな意味や思いが込められてるの。時枝さんが汲み取ったのは言葉の表面上だけ。そこにどんな気持ちが込められていたか、ちゃんと向き合って知ってほしい」

『本木さん……』

「あなたがどんなに人から敬遠されても、助けを求めた人でしょう? もう一度、信じてあげて」

 時枝さんは迷っている様子だったが、静かにこちらに近づいてきて地上に上がった。


「きっと、もう大丈夫だと思います」


 私は那岐さんを見上げて笑うと、水を吸ったワンピースは重かったが立ち上がる。


「そうみたいだな、敵意が感じられない。お前の言葉のおかげだろ」


 納得したように腰を上げた那岐さんと共に、私は足早に喫茶店を目指した。

 ときどき後ろを振り返って時枝さんがついてきているのを確認しつつ、黄泉喫茶に到着すると、時枝さんは靄から人の姿に戻る。