「でも、さすがにいい歳して、おんぶはない……」

「つべこべ言ってんじゃねえ、さっさとしろ」


 だがしかし、那岐さんの凶悪犯面に押し切られてしまい、その背に乗せてもらう。

 那岐さんは人ひとり抱えているのに身軽に走り、あっという間に黄泉平坂の入口まで戻ってきた。

 私は黄泉平坂の入り口で下してもらい、改めてあの気持ち悪い感覚に集中する。

 あ、まただ……。

 私は導かれるようにして歩き出した。奇妙な感覚に近づくにつれて頭痛が強くなり、夏なのに冷や汗を全身にかく。

何度も通った黄泉喫茶に続く道を進んでいたとき、ずるっと足が滑って身体が右へ傾く。


「――灯!」


 切羽詰まった那岐さんの叫び声と、バッシャーンッという大きな水しぶきの音とどちらが早かっただろうか。

私の身体は仄暗い沼の底へ沈んでいき、焦って手足をばたつかせる。