「……っ、痛いっ」

「おい、どうした?」


 地面に膝をついて顔を覗き込んできた那岐さんだったが、狂暴化した町民の足音が近づいてくるのに気づき、私の脇の下に腕を入れて立たせた。


「少しだけ耐えろ」


 身体を半分抱えられるようにして、私たちは路地に隠れる。
 私の肩に手を置き、改めて顔色を確認してくる那岐さんに「急に頭痛がして……」と説明した。


「おい、それって時枝と同調する際に発生したハウリングじゃないのか? だとしたら、お前なら時枝の居場所がわかるかもしれない。なにか、聞こえないか?」


「いいえ、聞こえませんけど……」


 なんとなく、モヤモヤしたよくないものを黄泉喫茶の方角から感じる。


「黄泉喫茶の方向に、こう……胸がざわつく感じがします」

「黄泉喫茶に戻ったのか……とりあえず、時間がねえ。行ってみるぞ」


 那岐さんはこちらに背を向けてしゃがみ込み、私を振り返って「乗れ」と言った。もしかしなくても、体調が悪い私をおぶろうとしてくれているのだろう。