「俺が時枝の質問に『そうだな』と答えた次の日、時枝は睡眠薬を大量に摂取して、自宅のドアノブに紐を括りつけ、首を吊っていたそうです」

 今なら時枝さんの『裏切り者』『復讐してやる』の意味がわかる。時枝さんは信じていた本木さんに裏切られ、自分を陥れた部長や同僚を苦しめるために喫茶店を出て行ったのだ。

「時枝にかけた言葉が間違ってたってわかったなら、ここでやり直せ。次にかける言葉をしっかり考えろ。俺たちが戻るまでにな」


 那岐さんはそう言ってエプロンを脱ぐと、私に「お前も着替えてこい」と顎をしゃくりバックヤードを指す。一緒に探しに行くぞ、という意味なのだろう。

 私は私服のワンピースに着替えると日焼け対策の麦わら帽子を被って、那岐さんと喫茶店の扉の前に立つ。

 皆に見送られながら外へ出る間際、本木さんの「時枝をよろしくお願いします」という声が聞こえて、私はいっそう強く一歩を踏み出した。