「あの……本木さん、様子がおかしくないですか?」

 私は焼きのりで明太子を包み、フライパンに油を敷いて中火で温める。那岐さんはフライパンが十分に熱を持ったのを確認すると、卵液を少し流し込んだ。


「おかしいのは初めからだ。挙動が犯罪者だな」

「それは言い過ぎですけど、本木さんは時枝さんに会うのが嫌なんじゃないかって、思うんです」


 那岐さんが敷いた卵に火が入ると、私はのりで巻いた明太子をその中央に置いた。那岐さんはのりと明太子を包むように残りの卵液を数回に分けて流し込み、分厚くしていく。


「嫌というより……恐れだろ、あれは」

「恐れ……?」

「死者に会いに来るヤツの中には謝りたい、許されたいって人間もいるからな。必ずしも、お前みたいに純粋に妹に会いたいやつばかりじゃないってことだよ」

 那岐さんは出来上がっためんたい卵焼きをまな板の上で切り、卵の黄金色が際立つ黒皿に盛った。
 そこへ頭も洗って着替え終わった水月くんが戻ってくる。

 この喫茶店にはどういう仕組みになっているのか謎だが、バックヤードの奥に生活スペースがあり、風呂もトイレも寝床も揃っているのだ。