東出雲町の黄泉喫茶へようこそ

『頑張らなくていいとか、私の意見がスタッフの士気を下げて害になってるとか、平気で言うんですよ。おかしいのは部長なのに、言いなりになるんですか?』

『それが組織に属するってことなんだよ』

『なにそれ……本木さんは部長が怖いから、逃げてるだけじゃないですか』


 その言葉に傷ついたような顔をした本木さんは、気を取り直すように店主になにかを注文した。少しして、『お待ちどうさま!』とテーブルに卵焼きが置かれ、ふたりの間に漂う気まずい雰囲気が吹き飛ぶ。


『この居酒屋のめんたい卵焼き、大好物なんですよね!』


 時枝さんの表情がパッと輝き、本木さんが安堵の息をつくのがわかった。


『お前はよく頑張ってるよ。腐らず、そのままの時枝のスタイルでぶつかっていけばいい』

『本木さん……はい、ありがとうございます』

 ふたりは喧嘩した手前、少し恥ずかしそうに笑い合って、ひとつの皿から分厚いめんたい卵焼きを食べる。

 理想の上司と部下の関係だな、と思っていると過去の思い出は煙のように消えて、私は喫茶店に戻ってきていた。