「誰か、解凍してあげなよ」


 なら、あなたがしてあげなよ、と突っ込みたくなるほど他人事な陽太くんに対し、黄泉喫茶の中でいちばんの常識人である水月くんが男性はの肩を叩く。


「お客さん、大丈夫ですか? いろいろ……いろいろ、驚かれたと思いますが、まずは席についてお冷……いや、ここはホットミルクでもサービスしますので、座りましょうか」


 水月くんの海より深い気遣いに男性はほっと胸を撫で下し、促されるままに席につく。私はホットミルクを準備すると、水月くんにメニューを渡された男性に差し出した。


「どうぞ」

「ああ、すみません」


 男性はペコペコと頭を下げながら、ホットミルクを水を飲む勢いで口の中に流し込み、秒で吹きだした。

 そのホットミルクはメニューの説明をしようとしていた水月くんの顔面を直撃し、男性と私は言葉を失う。

 沈黙が訪れ、店内にはぽたぽたと水月くんの髪の先から水滴がこぼれ落ちる音だけが響いており、私は「だ、大丈夫?」と声をかける。