「うん、それでも言うよ。私を心配させないように生きて。私に禊立てるみたいに恋しないとかも禁止。もし、もう一度、誰かを愛せたら……その人と生きてほしいの」

「美紀まで、俺を突き放すのか」

「違うよ、あなたの未来を愛してるからこそ言ってるんじゃない。なんで……わからないの、バカ……っ」

それまで包み込むような笑顔で磯部さんの悲しみを受け止めていた美紀さんだったが、強がりきれなかったのか、泣き出してしまった。

「私だって、私だってこんなこと言いたくないよ。でも、重荷になりたくないの。だから、私に永遠は誓わなくていい。その代わり、忘れないでいて……っ」

「……ごめん、酷いこと言った。美紀の気持ちはわかってるし、忘れるわけないだろ。それだけは絶対、約束する。ごめん……」

痛みを分け合うように、ふたりは手を握り合った。その姿に私の目は熱くなり、涙が頬を伝っていく。

どうしてこのふたりが一緒にいられないのか、極悪人ならたくさんいるのに、どうして美紀さんだったのかと、しょうもないことをぐるぐる考えてしまう。

命に優劣がないように死も平等に来るのだと思ったら無性に神様に腹が立って、胸の中で怒りと悲しみがない交ぜになって暴れ回る。

そんな私の左手がふいに温かくなった。

隣を見上げれば、前を向いたまま無言で私の手を握っている那岐さんの横顔がある。

寄り添ってくれているのだとわかり、優しさの津波が私の中に渦巻いていたモヤモヤした感情をすべて押し流してくれた。