「……それ、お前のご両親にも言われた。けど俺、すげえ嫌だった。なんでかわかるか? お前との繋がりがなくなりそうで、怖かったんだよ」

「そんな、なくならないよ」

「なくなるんだよ!」

磯部さんが声を荒げると、美紀さんの肩がビクッと跳ねた。

息をするのも躊躇われるくらい喫茶店内の空気が重くなり、磯部さんは我に返った様子で俯く。


「……俺たちは付き合ってただけで、籍は入れてない。葬儀だって夫じゃなくて、家族じゃなくて、ただの恋人……一般の参列者と同じなんだ。まるで、俺が美紀と特別な関係だったことさえ、時間が経ったら消えそうで……」


打ちひしがれている磯部さんの姿を見て、ごめんと謝るのも励ますのも違うと思ったのか、美紀さんはただひたすらにその手を握り続けていた。

「俺は……ずっとお前と生きていくんだと思ってた。今さら、美紀がいない未来なんて想像できない」

「……誠、私だってずっと一緒にいる気満々だったよ。でもね、こうなっちゃったからには……私がまた化けて出てくる必要がないように、誠には幸せになってって言いたい」

その言葉に顔を上げた磯部さんは、「無茶言うな」と弱々しくこぼす。